みかんのおはなし部屋。

難病(脊髄小脳変性症)と共に生きながらゆるりと頑張っています。

舞台「染、色」の感想(ネタバレあり)

※別サイトで書いていた記事(2021年6月27日)を再掲したものです。

「秋に咲く桜って知ってる?」

美大に通う深馬は首席で入学、作品は一定の評価をもらい、両親は創作活動に理解がある。彼女もいる。気のいい友達も、相談に乗ってくれる優しい先生も。
一見、何不自由ない人生かのように思われたがその心中は――。

 


舞台(戯曲)「染、色」を観劇しました。(原作拝読済)

友人達が先に“染まって”いたので、その感想などをふんわりと聞きつつ登場人物に想いを馳せながら観劇当日を迎えました。
私は小島健くん(ジャニーズJr.・Aぇ! group)のファンなのですが、同時に彼の元シンメ(相方)の正門良規くんのお芝居が大好きな人間でもあります。映像のお仕事の回数は多めな正門くんが初めて主演舞台に挑む――。この機会を逃さないわけにはいかないと、今回大阪に馳せ参じた次第です。

感想ですが、一言で表すなら「何もわからない」でした。
観劇途中までは「うんうん、なるほどね、そういうことね」と思っていましたが、最後の十数分間(時計は見てないので体感時間です)で抱いていた感想が秒で吹き飛んでしまいました。この感覚は「そうきたか!」と興奮と震えに繋がり、観劇終了後は足元がおぼつかないほどどうやって帰ったか思い出せないくらいの衝撃だったのです。

正直、この状況下でなければ舞台関係者の目に止まって、この衝撃が話題なっていたのではないかと思います。悔しい。素直に悔しい。

これは単なる青春偶像劇でもジャニーズの舞台でもありません。「染、色」という話の組み立てから伏線回収までが完成されたとんでもないヒューマン・ストーリーです。
迷っている方がいらっしゃれば、ぜひ生で体感して欲しい。熱と呼吸と体温をその身で感じて頂きたいのです。配信を望む声もありますが(もちろん私も配信で見てみたい気持ちもありますが)できればこれは生で見て欲しいと思うばかりです。

長々と失礼しました。
ここから先はかなりネタバレが多くなりますので、観劇予定の方やご自身の解釈以外の情報を得たくない方は本ページから離れて頂ければと思います。

 

染、色について(おおまかな流れ)

深馬は周りの学生から一目置かれるほど優秀で先生からも信頼を得ている学生です。友人の北見、原田と共に滝川先生の家(アトリエ?)に入り浸っては作品を作ったり作らなかったりしています。
彼女の杏奈とは少しドライな関係であるも別に不仲というわけでもなく、大学四年生の年を創作活動とともに生きています。油絵を専攻としており、日々真っ白なキャンバスに向かってペインティングナイフを踊らせています。

そんな順風満帆に思える彼ですが、心の中には翳りが見えはじめます。

ある日展示会に出した自身の作品が、目を離した隙に何者かによって描き足されてしまいます。その作品が芸術家に見染められ展覧会に招待されるも、その作品は自身が完成させたものではなく、また自身の力量がそれに見合っているのか不安になります。彼は絵を描くこと自体に限界を感じ、描くこと自体をやめたいと思っていたのです。たまたま上手くいっているだけなのに、自分よりもすごい人間(北見)がいるのに、と苦悩するのでした。

そんな時目の前に真未という女性が現れます。
彼女は深馬には出来ない・考えもつかないことをさらりとやってのける。境遇も考え方も違うのに、何故だか一緒にスプレー缶を持つ時間は音がひとつに重なり合うように調和してしまう。彼女に惹かれるまでそう時間は掛かりませんでした。

次第に周囲から変わったと思われ始めるも、本人は創作活動にきらめきが出たことで思考自体もポジティブになりますます創作活動に意欲的になります。真未と一緒に描いていたアートは話題になっていき、謎のアーティスト・ポリダクトリーとして話されることに興奮を得ていきます。アートを描いては真未と身体を重ね、性格もみるみるうちに明るくなり、充実した毎日を送る深馬。

しかし、そのアートを知らない誰かがなりすまして“描いている”動画を杏奈から見せられ、深馬は怒りの衝動のまま真未と犯人を探します。その犯人は相談に乗ってくれた恩師・滝川。滝川は「有名になれるなら」と深馬と真未のサインである“六本指(多指)”を塗りつぶして、新たに自分の六本指でサインを描いていたのでした。

滝川を敬愛する原田は滝川の行為を言い出せなかったことに対して詫び、深馬が展覧会に出すはずだった作品を切り裂いた“犯人”の動画を深馬に見せます。そこに映っていたのは真未でした。

真未を問い詰めるも、真未はいたずらしたかったと言い、深馬が望んだことだと主張します。縋る真未を深馬は拒絶し、ふらふらと道を彷徨って倒れたところを病院に運ばれます。一週間後、目を覚ました深馬の隣には杏奈が寄り添い、杏奈と共に穏やかな日常を過ごす中で次第に真未とは連絡を取らなくなっていきます。

春を迎え、就職した北見と原田と飲み会をする深馬。ポリダクトリーは自分だと告白するも、ふたりは何を言っているか分からない様子。焦り出す深馬は原田に真未が切り裂いている動画を北見と自分に見せるよう指示します。

しかし原田が渡した動画に映っていたのは、深馬自身だったのでした。

結局真未とはなんだったのか?

真未は深馬が作り出した理想(の人格)で、自分にできないことを真未がやっていることにすれば出来るようになると思って生み出されたのかなあと思います。「何にでもなれるよ!」と真未が深馬に叫んだシーンは、深馬の深層心理が真未を拒絶しつつも離したくなかったものが現れたのではないでしょうか。
真未とならどんなこともできると陽気になっていたのに、真未が大きくなりすぎて自分の意図してないことまでし出した。それが結果的に拒絶につながり、真未とのお別れにつながったのではないかなと思います。
生きていたら一度は「もっと私がこうだったら◯◯出来ていたのになあ」と思うことがあると思います。誰の心にも自分に出来ないことを成し遂げてしまう理想の“真未”がいて、その真未が出てきてないだけなのかもしれませんね。
個人的に三浦さんの気迫のあるお芝居が大変好みでした。他の作品でもお見かけしたい女優さんです。

北見と深馬

北見と深馬はいわば“シンメ”に近い存在なのかもしれません。お互い認め合っていて、高め合っている。でも拗らせていて本音を素直に言ってしまえば関係が壊れかねない。そんなあやふやだけど、楽しいことができる友達。素敵な関係だなあと思います。自分の欲しいもの(成績も評価も杏奈も)を全て得てしまう深馬を、北見はどのような気持ちで見ていたのでしょう。でも、きっと北見も誰かにとっての深馬的存在に見られていて、結局はないものねだりだったのかなあと思います。大学という広くも狭いコミュニティの中では2番手だった北見も、きっと社会に出ればそんなことはないのだろうなと思っています。幸せになって欲しい…。

原田と滝川、原田と北見・深馬

こんにちは!原田大好き芸人です!
今回2回観劇したのですが原田が大好きすぎておかしくなりそうです…愛おしい…可愛い…。

本題へ。飲み会のシーンで原田が滝川を好きだと言及した深馬に対し、原田は「誰にも言ったことないのに!」と驚きますが、深馬が作り出した幻覚(友人の性格は深馬が友人に対して抱いているものがそのまま現れているとみられる)にさえ敬愛する様子がまざまざと描かれているので、深馬はきっと感受性の豊かな人なのでしょう。
同じ大学に進学した友人おらず、新しい友人もつくれず、ひとり寂しくいる原田に滝川が声をかけ(たという話も深馬が作り出した幻覚ですが)たという点から見ても、滝川は学生思いであると思われている様子がうかがえます。

また、深馬の幻覚の中でも北見や深馬に対し「ふたりといると惨めになる」と原田は吐露しますがこれも、原田発信ではなく深馬発信だと思うと、逆に捉えれば深馬が原田のことをそう思っていたのかな、思ってしまって、「は、原田〜〜〜〜!!😭」となってしまいます…原田も札幌でのお仕事頑張って…幸せになってくださいね…。
(すみません、原田のところはほぼ私の私的感想になってしまいました)(小日向さんのお声が好きです)

杏奈について

深馬と恋人なのに二ヶ月も会えなかった杏奈。杏奈は深馬の隣にいる度に彼の変化を感じ取っていきます。何度も大丈夫?と繰り返すのは、以前の深馬との違いが明確になってきたからだと思われます。
杏奈はとても真っ直ぐまで一途だなあ、と思います。北見に相談するところも、弱々しい彼女として隙を見せるわけではなく、肩に置こうとした北見の手をするりとすり抜ける。縋る北見に手は伸ばさない。いつだって深馬が大切で、尊敬していて、大好きで仕方ないんだろうなあと。一番幸せになって欲しいのは杏奈です。個人的には深馬じゃない人と幸せになってくれと思っていますが()、きっと杏奈には深馬じゃないとだめなんだろうなあ。あとめっちゃ可愛い。杏奈ちゃん可愛い。

その他私が見ながら思ったこと

・「染、色」
これは2回目の観劇中に突然思い出したことなのですが、ポリダクトリー(多指症)は染色体異常により発症するケースもあるとのことです。偶然とは思えないので意味が掛けられているのかなと。
・深馬は精神病棟で目覚めた?
私は深馬の幻覚(違う人格を生み出したこと)を解離性同一性障害の症状だと考えているのですが、熱中症で一週間も入院することがあるのかな?という疑問から生まれた答えのひとつでした。(症例がありましたらすみません)
フォロワーさんからアルコール依存症だと思った、と言われたりもしたのでシゲアキ先生はあえて病名を付けていないのかなと思います!(私も依存症を併発していると考えています)
・歩くシーン
またこちらに関連して、円状にぐるぐると歩き回るシーンが度々出てきますが、こちらも精神的苦痛(パニック)によるものだと思います。もちろん舞台のスペースの関係上、歩いた距離の表現もかねていると思います。
・変わった作風
またまた関連して、杏奈を抱きしめた直後すぐにスケッチブックへ手を伸ばし、その絵を見た杏奈が驚いたことと、滝川が深馬のスケッチブックを見て作風が変わったと指摘したこと、真未が描き出す前の絵は幼児の描く絵に近いことから、精神障害の影響がここに出ているのかなと思いました。
・真未が居ない時も真未は居る
作中深馬が奇怪な笑い声をあげるシーンが度々あります。その時彼の脳内には真未が居て、真未が笑い声を上げているのかなと思いました。真未モードの深馬と真未、笑い方近いですよね…あれどれだけ合わせたんだろう…。
・洋服の変化
深馬の服装は開幕白T+ベージュのエプロンで始まりますが、ベージュシャツだけじゃなく黒シャツやグレーのパーカーを着ているシーンもありますよね。黒は真未と口論をした後、グレーパーカーは病室で着ています。これは深馬の精神状態を表しているのではないでしょうか?
また、原田がTシャツにベージュシャツを羽織っている時は深馬の幻覚のシーンだったのでは無いかなと思います。(北見の洋服チェックはしそびれました!すみません!でも病室ではカーキのズボンになっていました)
・秋に咲く桜(ソメイヨシノ
秋に咲く桜の話については何度か言及があり、北見が「もういいよその話〜!」と言うぐらいにはその話をしていることがうかがえます。
秋に咲く桜=たまたま咲いてしまった(たまたま境遇が良かった)深馬
その桜は枯れたら咲くことができるのか(同じぐらいの技量で復活できるか)ということの暗喩なのかなと思います。
ちなみに杏奈の杏(あんず)は桜の木を治癒する能力があるそうです。偶然……ではないような…。

 


以上、取り留めのない長々しい感想でした。
またなにか思い出したり気づいたりしたら加筆修正していきたいと思います。


おわり